Journal / 2026.03.31
JOURNAL Research / Stuttering

「出そうなのに出ない」を、声とデータで見つめる。 長崎県立大学との共同研究が始まりました

CoeCoqは横浜・首都圏を中心に、声・呼吸・身体のレッスンを届けています。
今回ご縁があり、長崎県立大学の先生方と、吃音の音声分析と改善アプローチに関する共同研究が始まりました。
まずは小さく――PoCアプリを作って、音声を「見える化」してみた記録です。

横浜・首都圏での実践 長崎県立大学 共同研究 PoC / 可視化

「話したいのに、言葉が出てこない」 「出そうなのに出ない感覚があって、つい 「えー…」 と時間を稼いでしまう」

吃音をめぐる体験には、声だけではなく、呼吸・身体の緊張・心の状態が深く関わっていると感じます。

今回の共同研究では、音声を手がかりにしながらも、最終的には「声が出る前」に起きていることを丁寧に扱い、 その人にとって現実的で、やさしい改善への道筋を見つけていくことを目指します。

※本記事は研究の「始まり」の記録です。医療的な診断や治療の代替を意図するものではありません。

長崎県立大学との共同研究:チームと役割

研究の主体は、長崎県立大学の看護学科の先生方。
CoeCoq(発声・呼吸・身体の実践)に加えて、IT/AIの観点から「音声を計測して見える化する」PoCづくりを担当しています。

  • 大学(看護):当事者理解、QOL・心理的負担・対人場面の視点、研究設計
  • CoeCoq:発声改善の実践知(呼吸・身体連動・響き)+音声解析PoCの実装
  • 今後の共同研究(構想):工学(生体計測/脳波)、臨床心理、運動療法などとの連携

2025年度はまず「少額予算で小さく実証し、次年度の研究計画へつなぐ」ことを主眼にしています。

まず作って、まず測ってみた:PoCの要点

今回作ったPoC(Proof of Concept:概念実証)は、音声を一定時間ごとの窓で解析し、時間軸上にスコアとして表示します。
ここでのスコアは「診断」ではなく、「候補(疑い)を見つけるための目印」です。

PoCが扱う4つのスコア(研究用)

  • repetition-likely:擬反復(オンセット密度などから推定)
  • prolongation-likely:擬伸発(声っぽい連続の長さから推定)
  • block-likely:擬ブロック(窓内部の無音と前後文脈から推定)
  • interjection-likely:擬フィラー/スタリング(「えー…」などの対処行動候補)

可視化して見えてきた「まとまり」

下の図は、4スコアを時間軸に並べたタイムラインです。
特に赤(interjection-likely)は、「えー…」が入る区間の「まとまり」を捉えるための手がかりになります。

4スコアのタイムライン(repetition/prolongation/block/interjection)
図1:4スコアのタイムライン。スライディング窓方式のため、同一現象が複数窓に跨ると「台地状」に見えることがあります。 ここでは診断ではなく、候補区間の目印として利用します。

代表区間を、スペクトログラムで確認する

タイムラインで候補になった区間は、波形やスペクトログラムで確認できます。
「えー…」のようなフィラーは、母音様の成分が比較的まとまって現れやすく、色の強い帯として視覚化されます。

※スペクトログラムは「音の強さの分布」を見る図です。これ単体で診断はできませんが、候補区間の確認や議論の共通言語になります。ちなみに、人それぞれ持っている音の配合と強さが違う、それが個々の音色を生んでいます。

代表区間のスペクトログラム(フィラー/スタリング候補)
図2:代表区間のスペクトログラム。可視化は「正解を言い当てる」ためではなく、現象を丁寧に分解して理解するための補助線です。

「えー」は悪者ではない。でも、苦しいときのサインかもしれない

「えー…」は会話のクセとして自然に出ることもあります。
ただ、今回扱っているようなケースでは、「出そうなのに出ない」を回避するための時間稼ぎとして現れることがあります。

研究の観点では、これを「症状」としてだけではなく、 対処行動(スタリング)として捉え直すことで、介入の設計が具体的になります。
たとえば、えーを無理に消すのではなく「出る前の身体条件」を整えて、「えーが必要ない状態」を増やしていく――そんな考え方です。

CoeCoqとしての還元:今日できる小さな練習

1) 「息が先、声があと」を10秒

言葉の前に、まず息を細く長く「ス(ㇷ)ー…」。
”息出てっていいよ・・・”とそっと許可をする感じです。
そのあとで短い言葉を一つ。
「息を出す→声を乗せる」の順番をつくるだけで、喉の突っ張りが減ることがあります。

2) 鎖骨の余裕をつくる THRESHOLDへ →

鎖骨の上下をやさしく撫でて、胸郭上口の詰まりをほどくイメージ。
呼吸が通ると、声の「入口」も広がっていきます。

※個別の症状や困りごとには個人差があります。無理はせず、違和感が出たら中止してください。

次にやりたいこと(2026年度へのロードマップ)

今回は「まず作って、まず測ってみた」段階です。次年度以降は、より納得度の高い研究へ進めたいと思っています。

  • 複数条件(朗読/会話/電話想定など)でのデータ収集と比較
  • 専門家(言語聴覚士等)によるアノテーション(ラベル付け)
  • ASR(文字起こし)併用による「語中の無音」推定などの精緻化
  • 呼吸・身体・脳波などの計測を併用し「声の前」を捉える
  • 呼吸・身体連動・発声調整の介入前後で、変化を追う

講義・研修・共同研究のご相談、受け付けています

看護・教育・支援・接客など、声と呼吸が関わる現場に合わせて、内容・時間・形式(対面/オンライン)を設計できます。
研究連携(可視化PoC、データ設計、現場実装)のご相談も歓迎です。